日本植物病理学会ニュース 第6号 (1997年08月)

名誉会員・永年会員の略歴とお話
名誉会員 岸 國平
 大正15年8月3日群馬県横野村 (現赤城村) で出生.旧制渋川中学4修で陸士へ, 終戦で中退.東京大学農学部農学科入学, 植物病理学を専攻, 昭和25年卒業.同年農林省へ入省, 東海近畿農試園芸部 (興津) 病害研究室へ配属となる. その後組織変更で園芸試験場興津支場となり, 田中彰一支場長, 北島博室長, 山田唆一先任研究員という鍾々たる病理の先輩のもとで果樹, 野菜の病害の研究に従事.13年間の興津在場の間にトマト疫病菌および葉かび病菌の寄生性分化に関する研究を進め, 野菜育種研究室での抵抗性育種に協力し, 葉かび病低抗性品種興津1 〜 6号の育成に側面的貢献をするとともにこの研究によって学位取得. 一方果樹病害では, 温州萎縮病の病原ウイルスを草本植物にとり出し, local lesion hostであるゴマを見出し本病のゴマ検定法を確立した.昭和38年園芸試験場環境部 (平塚) へ転勤となり研究室長となる.平塚では落葉果樹の病害が主研究対象となったが, 前記ウイルスの温州ミカンヘの戻し接種を続け, これに成功し, Satsumadwarf virusと命名した. その後行った核果類ウイルスに関する研究と合わせ, 昭和49年度日本植物病理学会賞を受賞.昭和48年野菜試験場設立により同場 (津) へ転任, 2年後本省へ転じ, 研究管理官, 研究総務官を経て農事試験場長 (鴻巣) となり, 同場を筑波へ移転.昭和56年農林水産技術会議事務局長となり, 2年間の在職中に農業生物資源研究所, 農業環境技術研究所の設立に当たる. 昭和59 〜 61年農業研究センター所長, 昭和61 〜 平成3年生研機構理事.この間学会に関しては二十数年間評議員, 副会長, 会長を歴任し, 会長期間中は第8回国際植物病理学会開催のための資金集めに奔走し裏方を務めた.
 今後植物病理学者が, 自然界における寄主と寄生者の世界を大きくとらえる視点で幅広い研究を展開してくれることを期待したい.

名誉会員 四方英四郎
 大正15年9月25日函館市生まれ.昭和19年3月北海道廰立函館中学卒業.同22年3月北海道帝国大学豫科農類修了.同25年3月北海道大学農学部農業生物學科植物學専攻課程卒業.同25年12月北海道大学農学部助手.同33年4月助教授. 同36年10月農学博士.同49年7月教授.平成2年3月定年退官.同年4月北海道大学名誉教授.同4年4月北海道澱粉工業協会参与.同7年4月同顧問.(株)北海道グリーンバイオ研究所取締役所長, 現在に至る.
 併任, 非常勤; 琉球大学農学部講師.北海道大学工学部講師.岐阜大学農学部講師.日本学術会議専門委員.札幌大谷短期大学講師.西野学園札幌医療科学専門学校 (元札幌システムラボラトリー専門学校)講師.八紘学園北海道農業専門学校講師, 現在に至る.
 学会; 日本植物病理学会評議員, 編集幹事長, 同北海道部会長.昭和63年度会長.平成9年4月同名誉会員.国際植物病理学会議Comcil Member.日本ウイルス学会幹事, 編集委員, 北海道支部長, 支部名誉会員. 日本電子顕微鏡学会評議員, 理事, 北海道支部長.国際ウイルス分類委員会−植物ウイルス分科会委員.Archives of Phyto-pathology and Plant Protection, Berlin編集委員.
 国際会議等; 昭和38年 〜 40年ボイストムスン植物研究所 (アメリカ) .FAO韓国コンサルタント.日仏科学協力事業でフランス他.中国雲南農業大学客座教授, 北京農業大学客員教授, 石河子農学院名誉教授.ウイルス日米会議 (東京).フィリピン国際稲研究所. 第1回国際植物病理学会議 (ロンドン), 第13回国際昆虫会議 (モスクワ).ロックフェラー財団招聰でコロンビア, アメリカ.インド第2回国際植物病理学会 (ニューデリー).アメリカ昆虫学会 (ハワィ).ASPAC-FFTC国際シンポジウム (台湾).シンガポール大学主催国際シンポジウム(シンガポール). ロックフェラー財団主催ウイロイド国際ワークショップ (イタリア, ベラジオ).第7回国際ウイルス会議 (カナダ, エドモントン).山梨ウイロイドワークショップ組織委員長 (甲府).第5回国際植物病理学会議組織委員 (京都).韓国忠北農科大学, 農村振興庁農業技術研究所招聰教授.台湾中興大学農学院招曙教授.
 昭和42年3月日本植物病理学会賞.同49年5月日本電子顕微鏡学会第19回瀬藤賞.平成元年5月同学会功労賞.昭和61年6月日本学士院賞.
 植物ウイルスの電子顕微鏡的研究.イネ萎縮病およびレオウイルスの研究.虫媒性植物ウイルスの研究.馬鈴薯ウイルス病の研究.ホップ矮化病ウイロイドの研究.ウイルスおよびウイロイドの分子生物学および遺伝子診断の研究.

名誉会員 山口 昭
 大正15年 (1926) 12月7日福島県塩川町に出生.福島県立会津中学校 (旧制), 浦和高等学校理科 (旧制) を経て, 東京大学農学部農学科 (旧制) 入学.明日山秀文教授の下で「オオムギ小鋳病菌の寄生性分化に関する研究」, 同大学院 (旧制) でも鋳病菌の寄生性分化に関する研究を行った.昭和29年 (1954) 5月名古屋大学農学部助手に転じ, 平井篤造教授の下で「ウイルス感染植物組織の呼吸代謝に関する研究」に従事. このテーマで昭和37年 (1962) 東京大学より農学博士の学位を受けた.この間, 園芸学研究室との共同でチューリップモザイク病に関する研究を行った.昭和39年 (1964) 10月 (この年東京オリンピック大会開催) から1年間米国ミシガン州立大学に留学.昭和46年 (1971) 名古屋大学助教授.同年8月農林省園芸試験場盛岡支場病害研究室長に転出, リンゴ病害の研究に従事.続いて平塚の本場でナシ・モモなどの落葉果樹病害, 興津支場でカンキツ病害の研究に従事した. 昭和58年 (1983) 果樹試験場保護部長 (つくば市), 昭和59年 (1984) 同場長.昭和60年 (1985) 4月, つくば市で開催中の科学万博にご来臨の昭和天皇を果樹試験場にお迎えした.同年,「果樹類ウイルス病の防除に関する研究」で日本植物病理学会賞受賞.昭和61年 (1986) 退職.直ちに(社)日本植物防疫協会に籍を置き, 第5回国際植物病理学会組織委員会副会長として開催準備に専念(1988年8月京都国際会議場で開催).平成2年 (1990) (社)日本果樹種苗協会専務理事. 平成3年度日本植物病理学会会長.平成7年 (1995) (社)日本種苗協会に転じ, 現在に至る.
 退職後は, ウイルスフリー果樹母樹の普及, 国際植物検疫関連, 農薬の安全使用基準の策定, 環境保全型農業の環境作りなどに努力している.健康である限りお役に立てればと考えている.

永年会員 尾添 茂
 大正10年12月5日出雲市で出生.昭和16年12月鹿児島高等農林学校農学科卒, 同17年1月農林省農事試験場雇 (病理部), 同21年8月鳥取県立農事試験場嘱託 (病虫部), 同22年7月農林省出雲農事改良実験所農林技官 (イネごま葉枯病防除試験), 同25年12月島根県農事試験場技師 (病理昆虫部), 同36年2月同試験場病虫科長, 同46年8月 〜 53年3月島根県農業試験場長. 島根県退職後, 昭和53年10月 〜 平成元年3月島根大学農学部講師 (非常勤.植物病学特論.58年はそのほか) に植物治病学), 昭和54年5月 〜 59年3月島根県立農業大学校講師 (非常勤) .また, 同47年4月 〜 55年3月日本植物病理学会評議員, 同51年4月 〜 63年3月島根病害虫研究会会長等.
 昭和36年12月農学博士.同37年3月農林大臣感謝状 (病害虫発生予察) , 同42年3月日本植物病理学会賞 (ムギ類黄さび・黒さび病), 平成5年11月農業試験研究一世紀記念会会長賞 (オオムギ雲形病, ムギ類黄さび病) を受賞.昭和21 〜 24年: サツマイモつる割病防除, イネごま葉枯病とイネ根部発育・客土効果の持続.同24 〜 35年: オオムギ雲形病の生態と防除, ムギ類黄さび病菌・黒さび病菌の越夏越冬と第一次発生源, クリ褐斑病. 同35〜41年: ブドウペスタロチアつる枯病の生態と防除, ワサビ病害.同41〜49年: ブドウ晩腐病の第一次発生と防除, ブドウさび病の発生生態, ワサビ墨入病の生態と防除, アザミウマによるワサビ根茎, 葉の黒変等を研究.なお, 島根, 鳥取両県では, 一貫して病害虫発生予察を担当.
 いま学会では, 先端をいく基礎的研究も盛んで, 学問の発展には誠に喜ばしい.植物病理学の目的とするところは作物の健全な生育である.故に, その基礎研究から, 紆余曲折を経ながらも防除へつないでいく研究への展開が必要だし, また実際防除の立場からは, 従来からの個体対象の域を越えた新しい視点で, 作物集団を対象とした発病, 流行機構の解析や防除方策等の研究が盛んになってほしいと思う.

永年会員 水澤 芳名
 大正8年3月10日横浜市西戸部町に出生.昭和16年5月東京農業大学学部農学科第3学年より肺結核にて休学.19年秋徴兵検査丁種合格 (兵役免除), 20年9月復学, 21年9月卒業.22年3月農林省農事試験場 (西ケ原) 入場, 助手を命ぜられ病理部勤務, 同年10月農林技官3級, 25年4月農業技術研究所と改称, 病理昆虫部病理科勤務.29年9月第1回放射性同位元素基本技術講習会の課程修了, 34年1月神奈川県の割愛申請を受け農林省退職, 神奈川県農業試験場病理昆虫部勤務, 38年病理昆虫科長, 農業総合研究所と改称, 47年8月技術研究部長, 同年10月残留農薬対策調査のため英, 独, 仏ほか2カ国に出張, 52年農政部参事1等級, 同年6月神奈川県退職. 54年7月より平成元年までJICA専門家としてフィリピン, フィージー, エジプト3国へ派遣された.62年4月より平成4年まで恵泉女学園短大園芸生活学科非常勤講師.
 西ケ原に入ってすぐ種子消毒用有機水銀剤ウスプルンの生物検定を命ぜられた.相前後して入った者が研究に従事したのに私だけが研究どは言えぬ事業的仕事で心外であったが黙々と検定を行った.当時飢餓状態下で朝7時から翌朝2, 3時頃まで仕事をした.各社から水銀剤が持ち込まれ上からは結果の督促が続いたからだ.散布剤が出始めるとMcCallanの方法を使うことになった.明日山先生がBoyce Thompson Inst.を訪問されるとき, 本法の疑問点を十数箇条正してとお願いした. 帰られて「彼から納得いく返事を貰えなかった」と言われたのを機に供試胞子の構造等の研究に移った.これらの研究で学位を得た.神奈川農試で電顕を入れるに当たり割愛申請を受け神奈川農試に移った.しかし, 電顕を使用するような仕事は無く, 外部からの依頼に専ら使用した.細胞レベルのオートラジオグラフイーの開発もその一つであった.胸部レントゲン写真を見て医者は「よく生きて来ましたね」と言う.我ながらそう思う.趣味:写真, ドライブ, 庭仕事, パソコン.
ymizuSawa@jsnjuStnet.or.jp

平成8年12月 〜 平成9年5月の学会活動状況
1. 大会開催報告
 平成9年度日本植物病理学会大会が, 平成9年4月2 〜 4日, 名古屋国際会議場において開催された.参加者は800人を越え, 総会に引き続き, 専門分野ごとに5会場に分かれて, 346題の講演・発表がなされた.ゆっくりとした落ちついた空間の会場と, 討論を含めて一題15分の持ち時間が設定された.91名におよぶ中堅・若手の座長の方々により, 円滑な講演・発表の進行と活発な質疑・応答が切り盛りされた.新しい知見の発表と新しい課題の発信基地として, 桜の満開の季節とはいえ, 460名を上回る懇親会への参加, 休憩室やロビーでの活発な交流など, 学術のみならず人的交流の場として, 稔りある成果を残した. また, 担当中部地区各県の現場における植物防疫事業に関係する問題と研究成果を, 広く普及する新しい試みとして, ロビーにパネルが展示された.
 なお, 本大会の運営は, 41名の学生会員を含む総計105名の中部地区会員と, 愛知県農業水産部, 賛助会員各社など, 多くの人的・財政的支援により支えられた.記して感謝の意を表したい.(道家紀志)

2. 研究会開催報告
(1) 第7回殺菌剤耐性菌研究会
 殺菌剤耐性菌研究会の第7回シンポジウムは, 107名の参加を得て, 平成9年4月5日, 名古屋国際会議場で開催された.
 最近, 新しいグループの殺菌剤が次々と開発されているが, その中から今回はアニリノピリミジン系薬剤を取り上げ, メパニピリム (クミアイ化学工業, 村松憲通), シプロジニル (ノバルティスアグロ, 杉井信次), ピリメタニル (ヘキスト・シェーリング・アグレボ, 瀬古隆司) の3薬剤に対する灰色かび病菌の感受性検定方法について話題提供を受けた. 未登録のものも含めた, 新規薬剤に対する感受性検定方法の検討や菌の感受性のべ一スラインの設定は, 薬剤の実用化に伴う耐性菌の発達と被害の発生を事前に防ぐために重要である.
 次に, 灰色かび病菌の薬剤耐性菌に関するモニタリング結果を実際の防除に迅速かつ有効に利用する目的で, 耐性菌の新しい簡易検出法が紹介された (大阪農技セ, 岡田清嗣).また, 耕種的, 物理的防除も組み合わせた複合管理技術を使用して耐性菌の発現を抑制する実際例についても述べられた (兵庫淡路農技セ, 入江和已) .
 最後に, 静岡県における耐性菌の発生実態と問題点についての紹介があった (静岡病害虫防除所) .
 本シンポジウムの講要集 (1部 2,OOO円) をご希望の方は, 研究会事務局 (農環研殺菌剤動態研, TEL 0298-38-8326) までご連絡下さい.(石井英夫)

(2) 第5回バイオコントロール研究会
第5回バイオコントロール研究会は, 平成9年4月5日9時から, 名城大学天白11号館において, 雨天にもかかわらず, 予想を上回る250余名の参加者を得て開かれた.
 午前中は, 非病原性フザリウム菌によるフザリウム病の生物防除と題して, ラッキョウ, ホウレンソウ, トマトの実例紹介3題とこれに関連して低抗性誘導のメカニズムについて, さらに弱毒ウイルス利用によるウイルス病防除の話題提供があった.午後は, 微生物資材の評価と微生物農薬の実用化に向かっての諸問題のほか, 今後の研究展開の期待されるテーマとして, 病原菌のpopulation biology の利用, エンドファイトの利用, 揮発性静菌物質産生糸状菌の利用が紹介された. 最後にトピックスとして, 第4回PGPRワークショップ (平成9年10月, 札幌) と第1回フザリウム生物防除ワークショップ (平成8年10月, ベルツビル) の紹介があり17時に閉会した.
 次回は平成11年大会時に新潟で開催される.その時まで現執行体制で運営される.(駒田旦)


学会関連各委員からの報告
1. 日本学術会議微生物学研究連絡委員会報告
本年の活動方針として, 21世紀を担う若い世代に微生物の重要性を理解させるための微研連主催公開講演会を開催することに集中することとした.この方針に基づき, 「微生物との戦いとその利用」と題する一般向けの講演会を以下の2回に分けて開催することとした.
第1回講演会
平成9年3月14日 (金) 於日本学術会議講堂
第1部 微生物との戦い
「人間はエイズを撲減できるか」
 栗村敬 (大阪大学微生物病研究所教授)
「大腸菌O-157感染を未然に防ぐには」
 本田武 (大阪大学微生物病研究所教授)
第2部 微生物の利用
「病気にかからない植物はできるのか?」
 奥八郎 (岡山大学名誉教授)
「廃棄プラスチックを土にもどす試み」
 土肥義治 (理化学研究所主任研究員)
「微生物がいなければマグロは育たない」
 木暮一啓 (東京大学海洋研究所助教授)

第2回講演会
平成9年5月23日 (金) 於日本学術会議講堂
第1部 微生物との戦い
「地球のどこかに現われる新しい伝染病」
 倉田毅 (国立予防衛生研究所部長)
「抗体だけが感染を防ぐ戦士ではない」
 川上正也 (北里大学名誉教授)
第2部 微生物の利用
「農薬の代わりに微生物で植物の病気は防げるか?」
 駒田旦 (元島根大学教授)
「バイオ食晶, 医薬と微生物の役割」
 木村光 (京都大学食糧科学研究所教授)
(久能均)

2. 日本農学会報告
平成9年度日本農学大会が, 平成9年4月5日東京大学山上会館で行われた.本年度の日本農学会受賞者は次の7氏であった.
(1) 平滑筋運動の生理・薬理学的研究と医学・獣医学への展開
 日本獣医学会: 東京大学農学部教授 唐木英明
(2) 物理環境調節による培養植物の成長制御と大量増殖に関する研究
 日本農業気象・農業土木・農業機械・日本生物環境調節・農業施設学会: 千葉大学園芸学部教授 古在豊樹
(3) 植物・動物間相互作用の数理モデルによる研究 −作物・害虫間および牧草・家畜間に働くダイナミクスの解明−
 システム農学会・日本草地学会: 茨城大学理学部教授 塩見正衛
(4) C4植物における光合成機能統御の分子機構の研究
 日本農芸化学会: 名古屋大学農学部教授 杉山達夫
(5) 篩管液の生理学的研究
 日本土壌肥料学会: 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 茅野充男
(6) アブラナ科植物の自家不和合性に関する研究
 日本育種学会: 東北大学農学部教授 日向康吉
(7) 海洋生物毒の精密化学構造と動態の解析
 日本水産学会: 東北大学農学部教授 安元健
また, 同日午後「新しい遺伝資源の開発」というテーマでシンポジウムが開催された.


今後の学会活動および関連学会開催予定

国際植物病理学会および関連国際会議の案内

会員の動静

会員の各種出版物案内
市原耿民・上野民夫編: 植物病害の化学, 学会出版センター, 310pp., 1997, \6,796(税抜).

海外協カプロジェクトの紹介
現在実施中のプロジェクト方式技術協力のうち, 植物病理学会関係者が長期専門家として参加している案件を学会報63巻2号の学会ニュース5号にて紹介しました.新たなプロジェクトの案件を以下の通り紹介します.
国名・プロジェクト名: パラグアイ・小農野菜生産技術改善計画, 協カ期間: 1997.4 〜 2002.3, 長期専門家名: 石島輯 (リーダー), 佐藤俊次.

海外留学印象記
コーネル大学への留学
 1996年5月から8月にかけて, OECDフェローシップを得て, コーネル大学のOlen C. Yoder教授の研究室に留学することができた.コーネル大学のPant Science分野は学内でも伝統があり, 風格のある建物にも歴史が感じられた. 研究室は教授陣の他に韓国, 中国, ドイツなどからの多彩な顔ぶれのポスドク, 大学院生, 客員研究員で構成されており, 日々精力的な研究が行われていた.業績としては, トウモロコシごま葉枯病菌のHMTトキシン産生遺伝子のクローニングが著名であり, その関係で私のテーマである類縁菌の北方斑点病菌の宿主特異的毒素 (BZRトキシン) の産生遺伝子のクローニング関連の仕事ができた. 研究室では皆がとてもフランクで, 教授といっても友人のように接してくれた.研究の進め方では, 問題があったり, ライバルに出し抜かれそうになると素早く対応し, 各自に仕事を割り振って問題解決を図っていた.
 コーネル大はニューヨークから北西へ250kmのイサカという町にあり, 町自体が大学中心に成り立っている.アメリカ社会も色々問題を抱えているようだが, イサカを見る限り, 治安は良く, 町は美しく, 自然はたっぷりと残され, 広々とした空間があり, まさに言うことなしという感じだった. また, 社会的弱者に対する配慮も素晴らしく, 身体障害者用の駐車場の完備や児童のスクールバス乗降時のルール (他の車は一時停止義務有り) などがあり, 違反者には厳しい罰則も設けられていた.また, 見知らぬ人からも気軽に声をかけられ, アメリカ人の気さくで親切な国民性に深い感銘を受けた. これだけいいところずくめの国ではあったが, ゴミゴミした日本に帰ってくるとほっとしてしまうのは不思議なものだったが.
 最後になったが, 4ヵ月という短い期間で曲がりなりにも仕事ができたのは, 研究室の優秀なスタッフの指導はもちろんのこと, 同時に滞在されていた東京農工大の寺岡徹先生の懇切なアシストが大きかった.この場でお世話になった方々に深く感謝の意を表したい.(月星隆雄)

書評
「新編植物病原菌類解説」
著者:池上八郎, 勝本謙, 原田幸雄, 百町満朗
発行所・発行年: 養賢堂, 東京・1996年
定価: 6,OOO円 (本体) , B5判 475pp.
樋浦誠先生の「解説植物病原菌類」, また, その後改訂された「改訂・増補植物病原菌類解説」は, 大変丁寧で分かりやすく書かれていたため, 植物病理学において, 菌類の基礎や菌類病を学ぶ上では, 大変有益な教科書としての役割を長い間果たしてきた.しかしながら, 菌類学の最近の急激な進歩などのため, 最新の知見を加えた新しい菌類の解説書が求められていた. これに応えるように, 菌類の分類や生態などを専門とする4名の著者により, 新たに「新編植物病原菌類解説」が刊行された.本書では, 樋浦先生の著書の基本的な構成や内容が引き継がれ, それに新たな知見を加えるとともに, 用語の修正や新分類体系を取り入れるなどして, 内容をより充実させている.また, 新たに多数の図, 写真, 表が加えられ, 初心者でも平易に理解できるように工夫がなされている. 本書は, 4編から構成され, 第1編では, 菌類と菌類の病気の基礎的な解説と, その採集・同定の手順が, 第2編では, 植物病原菌類として重要な約40の菌群について, それらの形態的・生態的特徴, 日本産の主な種類とそれらの採集・鑑定方法が, 第3編では, 植物病原菌類の分離・培養・接種・保存の基礎手順が, 第4編では, 分類体系に従って, 科と属の解説を中心に主要な分類群の特徴が, それぞれ述べられている. 本書は, 植物病原菌類の基礎的知識や取り扱い方を知るためには, 好適の入門書であり, また, 菌類を幅広く知るための参考書としても活用することができる.植物の病気に携わるすべての方々に座右においていただきたい書として推薦させていただきたい.(柿鴬眞)

学会事務局コーナー

編集後記